死闘・まもるVSヨーコ
Text by mampepper
PART-2

カーン。

「第一ラウンド終了、1分間の休憩よ」
そう言うと、ヨーコは自分のコーナーに用意された椅子に、ゆったりと腰を下ろした。
「はあ、はあ、はあ……」
まもるは肩で大きく息をしながら、対角コーナーに座った。
セコンドには、あの黒眼鏡の男がついている。
「ほら、うがいしな」
「…いらねえッ!…」
まもるは、タオルで鼻血を拭きながら、
男の差し出したうがい用のビール瓶を払いのけた。
何よりも、1発も有効打を入れられない自分が腹立たしかったのである。
「まあ、せいぜい回復することね。
 アタシも次の回あたりからエンジンをかけさせて貰うわ」
荒い息を必死に整えるまもるに向かって、ヨーコはそう言い放った。

第2ラウンド。
1ラウンドの終わりで顔面にパンチを食らったまもるは、
慎重にガードをかためている。
すっかりまもるを舐めきった表情のヨーコは、
ほとんどノーガードの顔をまもるに突き出しながら、
「ホラ、キミ、アタシの顔はここよ」
と挑発する。
「ぐっ……うう〜っ!」
屈辱に震えながら、何発もパンチを連打するまもる。
しかしそれらは、ことごとくヨーコの鉄壁のガードでブロックされてしまった。
休憩でいくぶん回復したはずのスタミナも、急激に失われていく。
続いて顔面を狙った回し蹴りを、ヒジでバチーンとはじかれ、
攻め疲れたまもるはふたたび距離をとって呼吸を整えようとした。
その時、ヨーコがクルッとまもるに背を向けた。
「ぐっ…げええっ……」
次の瞬間、鋭い後ろ蹴りがまもるの腹に食い込んだ。
「うっ…ふげえぇぇぇっ……」
リングの中央にダウンしたまもるは、激痛に腹をおさえながら、
ゴロゴロとマットの上を転がった。
口からマウスピースが半分、出かかっていた。
まるで虫けらのように体を丸めて、のたうち回るまもる。
「なに、そのザマは? そんなのでよく、アタシに勝つなんて言ったわよね」
ヨーコは、ダウンしたままのまもるの尻を、ポンと軽く蹴飛ばした。
「ホラ、いつまでお休みしてるの?」
「ぐっ……ぐぐぅっ…」
まもるはようやくロープに手をかけ、立ち上がった。口の端から血が滲む。
必死に、ファイティング・ポーズをとるまもる。
「フフ…かわいいキミに、ロープを背にさせてあげるわ」
胃袋からこみあげてくる不快感と、痛みとで、
まもるは既にほとんど戦闘不能状態に陥っていた。
「ほら、どうしたの? もうギブアップ? 
 死んでもお姉さんを助けるんじゃないの?」
「……まだまだ……、勝負はこれからだ……」
まもるは、自分に言い聞かせるように言葉を絞り出した。
「あら、そう。じゃあ、私も存分に楽しませてもらうわ」
「く…くっ…くっそおぉぉぉっ……」
まもるは必死に右足を上げ、回し蹴りを放った。
「よく頑張るじゃない。根性だけはあるみたいね……ご褒美よっ!」
ヨーコはフットワークを使ってまもるの懐の中に入り込むと、
その蹴り足のヒザの部分に、強烈なヒジ打ちを叩き込んだ。
「うっ…うぎゃああああああああっっ!」
足がちぎれるような激痛に、まもるはヒザがしらを押さえてのたうち回った。
「ふふふ……ヒザがどうにかなっちゃったかもね、キミ?」
「いたっ……いっ…たぁ…ひっ……あううううううううう〜〜っ……」
それでもまもるは、必死にロープをつかんで立ち上がった。
しかし、攻撃を受けた方の足には自分の体重を乗せることさえできず、
ロープにもたれているのが精一杯の状態であった。
「じゃあ、そろそろいくわよ」
ヨーコはまもるのパンチを難なくかわすと、軸足の左ヒザめがけて、
前蹴りを叩き込んだ。
「ひぐぅっ!」
まともにヒザの皿を蹴られたまもるは、激痛に意識さえ遠くなりながら、
その場に両膝をつこうとした。
しかしその、まもるがダウンする寸前に、ヨーコは下から抉るような
右の回し蹴りを、まもるの顔面にぶちこんだ。
ビシッ!
「あ……はっ!……」
衝撃で、まもるの体が一瞬、空中に浮き上がった。
まもるが左頬に受けた、刺すような痛みは、その直後、右頬にも襲ってきた。
ヨーコは、足でまもるの頬を張ると、そのまま足首を左右に動かし、
まるで往復ビンタのようにまもるの頬を張りまくったのである。
ヨーコのなすがままに、蹴られるたびに左右に首を大きく振りながら、
まもるはロープにもたれて、倒れることすらできなかった。
まもるの口や鼻からバッと血が噴き出し、顔面はみるみるうちに腫れ上がっていった。
「ふふふ…そんなに簡単にKOじゃ、つまらないわ。たっぷり楽しませて貰うからね」
ヨーコは、わざと蹴りの威力をセーブして、片足だけでまもるの顔を蹴りまくった。
「ぶっ!……ふぐうぅぅっ!……」
6往復、7往復、8往復……。
1発1発の攻撃は、まもるの脳をガクガク、激しく揺さぶった。
「あ…はあっ……いた……いっ……」
発狂しそうな痛みの中で、なぜかまもるはいつの間にかいいしれぬ快感を覚えていた。
空手着の下で、まだ自慰さえも知らないオチンチンが次第に努張しはじめていた。
まもるの両方のマブタは大きく腫れ上がり、目はほとんど塞がれた状態になった。
まるで数えていたように、ヨーコは10往復めの足によるビンタを
やり終えると、足を下ろした。
「う……ああ〜っ……」
まもるの口から噴き出される血に、白い小さな固形物が混じっていた。
それは、口の中で粉々に砕けたまもるの奥歯のかけらだった。
まもるは、前のめりになって倒れこんだ。
その時、自分の顔面がマットに沈む前に、まもるは自分の鼻先に甘酸っぱい匂いを嗅いだ。
それは、マットの埃と、汗と、女性の足の匂いがブレンドされたものだった。
さきほどの脳に受けた快感とも相まって、瞬間、不覚にもまもるは、成熟していない
イチモツから白い液をピュッと発射した。
だが、その快感も長くは続かなかった。
ヨーコが、ダウンしようとするまもるの鼻を、足の指ではさんで、振り回したのである。
「…ひぎぃっ…!!」
メリッ、と、まもるの鼻が無気味な音を立てた。
それと同時に、両方の鼻の穴から血が滝のように流れ出す。
ダウンしたまもるは、鼻をおさえてうずくまった。
「…ふっ、鼻が折れちゃったかなあ?」
「ぐっ…ふぅぅぅぅ〜〜っ……」
やっとのことで、まもるは必死に立ち上がった。その時、
「かはっ!」
ヨーコの姿を真正面に見ながら、まもるは延髄に激痛を感じた。
ヨーコの矢のように速い回し蹴りが、まもるの後頭部をえぐったのだ。
腕が鉛のように重く感じられたが、それでもまもるは必死にガードしようとした。
しかしそのガードを難なく抜いて、強烈な蹴りがまもるの頭部めがけて襲ってくる。
頭に、顔に、胸に、腹に、足に……。
もはやまもるには、ヨーコの姿さえはっきりとは見えていなかった。
通常の試合ならとっくにストップがかかっているだろうが、これは
ノーレフェリー、フリーダウン、フリーカウントの完全決着ルールだ。
まもるは何度も血の糸を引きながら沈んだ。
そのたびに、まもるはうめき声を上げながらマットの上をのたうちまわった。
倒されては立ち上がり、反撃を試みるのだが、もうまもるの攻撃にはスピードも威力も
備わっていなかった。
ピチャッ、ピチャッ。
まもるの血飛沫が白いリングを紅く染めた。

その時、第2ラウンド終了のゴングが鳴った。
ロープにもたれかかりながら、まもるは必死の思いで自分のコーナーに戻った。
顔面は既に潰れたトマトのようになっていた。
白い空手着の上半身の部分は、既に血で真っ赤になっている。
「う……み……みず……おねがい……」
1ラウンドの時には拒否した、うがい用の水を、今度はまもるは自分から求めた。
「ほらよ」
ペットボトルにむしゃぶりつくまもる。
「うぶっ!」
バケツの中に吐き出した水は、血で紅く汚れ、中には砕けた歯のかけらが混じっていた。
「オメェ、歯ァなくなっちまうぜ?」
セコンドが、放心状態のまもるの顔をのぞきこんだ。
まもるは金魚みたいに口をパクパクあけて、荒い呼吸を整えている。
目の前には、ヨーコが涼しい顔で座っていた。
「ふっ……張り合いのない。キミ、それにしても弱い、弱すぎるわ」
だが、そんな嘲りの言葉もまもるの耳には入らなかった……。

(PART-3へ続く)

(感想等は Mampepper@aol.com まで)

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