1・ホテル石庭
ホテル石庭は、ノイエ・シブヤ駅のラブホテル街の一角にある。深緑の壁に「岩風呂」
という白い文字が、浮き彫りになっている。待ち合わせには、良い目印だった。岩端は鞠
矢(まりや)との密会の場所を、ここに決めていた。
鞠矢というのは、彼が付けた名前だった。鞠のように、顔も胸も手足も丸いという印象
があったからだ。女子中学生であることは、生徒手帳の名前の部分を、大きな指で押さえ
ただけで見せてくれたから、間違いない。生徒手帳は、本物だった。岩端は、現役の中学
校の先生であったから、よく知っているのだ。写真に押されている刻印は、正規のものだ
った。
ある援助交際の集まりの、会員になっている。『魔女の宅配便』という。登録しておくと、
こうして適当な女子高生や、中学生を紹介してくれる。便利な組織だった。高校性は身体
が大きすぎて、どうも好みではない。教え導くべき教職者が、何という不道徳なことをし
ているのかとも思うが、止められなかった。普段の彼は、面倒見の良い優しい体育教師と
して、生徒の評判が良かった。五十歳の知命に近い年まで、生徒との不祥事を何も起こさ
ずに、堅実に勤めてこられたのは、このような息抜きの場所を持っていたからだと思って
いる。
岩端は革カバンから、愛用のまわしを出した。ズボンのベルトの上から腰に付けてみる。
思わず口元が弛んだ。今日は鞠矢と、とことん勝負するつもりだった。彼は中学生の男子
と女子に、相撲とSUMOを指導している。全国の中学校にも少なくなった、男子相撲部
の顧問をしている。
岩端が、ホテル石庭をとくに好んでいるもう一つの理由は、地下室に土俵があるからで
ある。もとより神聖な場所ではない。特殊な趣味で、女に投げ飛ばされることを、至福の
喜びとする男たちの場所だ。無量の煩悩の精液が沁みた土だ。それでも良い。岩端自身も、
潔斎をした身体で、ここに臨んでいるのではない。ただ、己れの獣欲を満たしたいだけだ。
ただし、形式はきちんと踏みたい。
彼のI大学教育学部の同窓の友人に、本当に教師としての意欲に燃えていた男がいた。
岩端のように、相撲を取りたいからという邪な理由で、教職についたのではない。彼こそ
が、先生としてふさわしいと思っていた。しかし、ある年に、家庭に問題を抱えた女子の
指導にあたった。その時に魔が差した。手を出してしまった。ある別な事件から、偶然に
露見した。周囲が庇った。女子生徒も、彼を愛しているから抱かれたと関係者に証言した。
警察沙汰には、ならなかった。しかし、彼はその後、精神病院に入ってしまった。退院は
したが、学校の花壇の世話をしたり、割れたガラスの修理をしたりして、日々を過ごして
いる。教師としては、廃人同然の状況だった。
岩端は卓袱台のポットから、急須にお湯を、ぽこぽこといれた。煎茶は良いものだった。
苦みが舌に心地よかった。鞠矢は、もすうぐ来るだろう。時間には正確な子だった。制服
から学校の名前も検討がついてたが、別に本名を調べようとは、思わなかった。教師とい
う仕事は、生徒のかなりの個人情報を管理している。電話番号ぐらいは、当然に知ってい
る。
「商品には手を出さない」というのが、彼の基本的な営業方針だった。教育というのは
聖職ではなくて、接客商売だと思っている。人当たりは良くなければいけないが、ある程
度以上の関係にはならないように、慎重に対応していた。それで、今まで生きて来たのだ
った。
ホテル石庭には、二種類の部屋があった。第三次性徴世界の女の子のサイズに合わせた
部屋と、男性用のサイズの場所である。両国の間は、後者だった。古い日本間の作り方を
している。居間と寝室と岩風呂と、三つの部分に別れている。彼がいるのが、居間だった。
杉板の貼られた天井の高さは、二メートルというところだろう。床は畳である。床の間に
は、椿の赤い花が活けられていた。落ち着ける環境だった。古き良き日本がここにあった。
しかし、よく見ると偽物ばかりだった。天井の杉板も畳もプラスティックである。花瓶
の花は造花だった。だいたい旧世界の日本家屋を造っていた森林が、隕石の衝突によって、
20パーセント以上が破壊された。今の日本では、木材は貴重な天然資源である。高価な
ものになっていた。連れ込みホテルで使える材料ではなかった。
それに、紙も木も、現代の女の子の体重に耐えない。杉板などは、鞠矢が、立ち上がっ
た拍子に、頭をぶつけたりしたら、一瞬にして大穴が開いてしまうだろう。要するにこの
部屋は、偽物で塗り固められた、過去の模造品だった。彼と同じだった。岩端は自分を、
過去の時代の日本人の男性の模造品だと信じていた。だから、教師として女子中学生のお
尻を追い掛けようと、恥じることは何もなかった。
壁の時計が、五時十五分を示していた。携帯で連絡を取ろうかと思った瞬間に、電話が
鳴った。
「岩端先生ですか。鞠矢です。今、ノイエ・シブヤの駅前にいます。人身事故で電車が遅
れました。すみません。すぐ、行きます」
「急がなくていいよ。気をつけてな」
岩端は、電話を切ってから、自分の教師じみた口調がおかしくなった。身体にしみ込ん
でいるのだ。嫌な反応だった。なぜ、こんなところにまで来て、威厳を保つ必要があるの
か。自分は、ただのロリコンの、ひひじじいなのだ。彼は、鞠矢に先生と呼ばれたことに
も無意識だった。彼女は、彼の職業を知っていて、付き合ってくれているのだった。
電話のマイクが、駅前の雑踏のざわめきを拾っていた。人身か。自殺だろうか。岩端は
反射的に思った。最近、成人男性の中高年に自殺が急増していた。社会問題になっている。
冷蔵庫から、これは女の子サイズの、十リットル入りの、巨大なコーラのビンを出して
おいた。重くて片手では持てない。両手で抱えた。よく冷えていた。鞠矢は、熱い日など
は、これを一気に飲み干す。すさまじい光景だった。
第三次性徴期に入っている彼女の身長は、彼の倍以上はある。体格からして当然のこと
だった。鞠矢は、彼の趣味を理解して、まわしを付けてくれる唯一の女性だった。『魔女の
宅配便』に登録されている女子中学生は多数いた。が、まわしをしめて、真剣に岩端の相
手をしてくれるのは彼女だけだった。そのことだけでも、好意を持っていた。
玄関のベルが鳴った。覗き穴から鞠矢だと確認した。それから、扉のロックを慎重に解
除した。ノイエ・シブヤは、犯罪の多発している世界だった。自衛が必要だった。
「先生、ごめんなさい、遅れました」
玄関で、黒の五十センチメートルはあるローファーを、ごとりごとりと脱いでいた。両
手をついて部屋の中に、膝でずりずりと擦りながら入ってきた。雌の虎が、一頭入り込ん
で来たようだった。それぐらいの大きさは優にある。
岩端が、男性用の部屋にこだわるのは、部屋の対比によって、鞠矢の巨大さが、強調さ
れるような感じがするからだった。制服の紺色のプリーツスカートの大きな尻が、入り口
の戸の上の木枠につかえてしまっていた。岩端は、別にそうと意識するでもなくて、腰を
屈めることもなく無意識に通り過ぎた戸口である。そこすらも、彼女には難関なのだった。
彼女の身長は、三メートル六十センチ以上はある。この部屋は、男性用に造られている
から、当然、真っすぐには立てない。岩端の巨大感を味わいたいという要求とは、本来は
矛盾するかもしれない。
が、学校の教室でも通りでも、肩で風を切って雄大な生きている塔のように、傍若無人
に闊歩している。その少女たちが、窮屈な世界で苦労する様子を眺めているのは嬉しかっ
たのだ。復讐の気分を味わえた。
最初に来たときには、狭い、小さいと文句の言い通しだった。いろいろなところに、頭
や身体をぶつけていた。しかし、三回目なので、若干、慣れている節もあるようである。
身体のこなしが、スムーズである。勘の良い子だった。困る彼女を見たかったので、残念
でもあった。
駅からホテル街まで、道元坂を走って登ってきたのだろう。息を切らしていた。中学校
の制服のままである。夏服の上は、白いブラウスである。十月一日が衣替えで、紺色の上
に白いリボンになる。九月はまだ、その季節ではなかった。ゆったりとした厚い生地が、
汗で肌に張りついている。半透明になっていた。見るからに熱そうだった。
ここ数日間は、夏の熱波が空気に残っている。熱帯夜の寝苦しい日が続いていた。部屋
の空気が、彼女の汗の香でたちまちに、いっぱいになっていた。
低いテーブルを挟んで、彼の反対側に座った。行儀よく正座する。ようやく二人の目線
の高さが同一になる。安心できる光景だった。
「コーラは、どうだい?冷た〜く、ひえてるよ」
「ありがとうございます。いただきま〜す!」
彼女は、ビンを片手で軽々と握り締めた。栓抜きも用意してあったが、親指の先でぴん
と弾いて開けてしまった。怪力なのだった。鞠矢が特別ということではない。『第三次性徴
世界』の少女たちは、みんな同じようなものだった。白い首を逸らせて、一息にぐびぐび
と飲み干してしまった。
「ああ。おいしかった。ごちそうさま」
それから、ちらりと切れ長の流し目で冷蔵庫の方を見た。岩端は見逃さなかった。もう
一本飲んでもいいよと、許可を出した。ここで買うと、外のコンビニでのむよりも、何倍
も高い。それを知っていて遠慮しているのがわかったからだ。彼も、男性用の缶ビールを
出してもらった。景気付けのために、飲むことにした。乾杯した。鞠矢は、アルコールは
一滴も飲まなかった。
「ブラウスを、脱いでもいいですか?」
岩端に確認を求めて来た。彼が、鞠矢の服を脱がせることが好きだと知っている。色っ
ぽい流し目で誘ってきた。鞠矢は、目元が細長い。前世紀のアイドルであったなんとかい
う女優に、面影が似ているような気が岩端はしていた。ぽちゃりとした唇の肉の乗り方も、
近いかもしれない。
「ぼくが、するよ」
岩端は、ビールを底の泡まで啜った。ワイシャツの袖をまくり上げた。臨戦態勢に入っ
ていた。
「先生、エッチね」
鞠矢は、正座から足を崩して横座りになっていた。彼の方に上半身を倒してきた。
「サービス、しちゃおうかなあ」
ブラウスの中の豊かな胸が生地を押し上げていた。白いピラミッドが盛り上がっていた。
中に肌色のブラジャーが見えた。いや、下着ではなくて、それは水着だった。この前に、
肌色のビキニを着てもらいたいと、リクエストしたのだった。そのためのお金は渡してお
いた。覚えていてくれたのである。鞠矢のいい点は、約束を忘れないで実行してくれるこ
とだった。お金だけもらって、忘れたふりをする子もいたのである。
胸元から、ブラウスのボタンを、上から順番に外していった。きついところは、鞠矢が
それとなく手を貸してくれた。岩端は自分の体重を支えるために、彼女のスカートの下の
太腿に、乗るような態勢になっていた。ぱんぱんに張り切っている筋肉の固さが、彼には、
夏服でも毛布のように厚い布地の下に感じられた。これ以上薄いと、彼女たちの若い肉体
の、力と運動量に負けてしまうのだろう。体温の熱気が感じられた。
彼女の甘い息が、岩端の半白の髪を揺らしていた。地肌の頭皮の髪の根元まで、すうす
うと通ってきた。鞠矢は、良い匂いだといってくれた。岩端のARAMISのヘヤートニ
ックの薫りだった。好いてくれているのだった。両手を後の畳に、長い指先を向こうにし
て、ついている。それを支えにして大きな胸を反らせていた。
岩端は、ブラウスを左右に開いていった。もわりとする少女の体臭が、温気とともに立
ち上っていた。色白の肌理の細やかな肌が、雪原のように顕になっていた。左の乳房の膨
らみ始める麓に、黒子がある。そこからキスを始める習慣だった。
「あ。あん」鞠矢が、びくんと胸を揺らした。176センチのGカップである。男とし
ては長身の部類に入る岩端の身長よりも、なお十センチ大きかった。申し分のない肉の球
体である。肌色のビキニの生地に支持されている。ぴちぴちとした弾力を持っている。彼
の体重を跳ね返していた。
馬の胴体に、跨がっているようだった。彼女の引き締まったウエストの左右に、紺色の
靴下の両足を置いた。膝だけでは長さが足りずに、かろうじて畳を擦るぐらいあった。ど
しんと尻を乗せた。遠慮はしなかった。鞠矢の腹筋に守られた強靭な胃袋は、二十リット
ルのコーラを入れて、なおいささかも衝撃を覚えていなかった。泰然自若としていた。何
も感じていないような様子だった。癪にさわっていた。
岩端は乳房に伸し掛かっていった。そこも、しゃくにさわるぐらいに巨乳の形が崩れる
ことはなかった。子犬が一匹、身体に上っているようなものなのだろうか。汗の塩味がす
る胸元の皮膚を、きれいにしていった。それこそ本当の子犬になったように舐めていった。
本当は、汚れてなどいなかったのだが。洗ったばかりのように、きれいな肌だった。
「先生、あたし、汗かいてるから……。汚いよ」
鞠矢は、くすぐったそうに身をくねらせた。初めて手応えのある反応を引き出していた。
岩端は、その言葉を無視した。肌色のビキニのカップ。山盛りに盛られた両方の乳房の上
半球の肉。おいしいバニラのアイスクリームのように、舐めていった。ぺちゃぺちゃと音
をさせていた。止まらなかった。
鞠矢が、彼のワイシャツの上から、大きいが繊細な指先で、いとおしそうに筋肉のひと
つひとつの形を確認するように、愛撫してくれていた。岩端が夢中になっていくのに、つ
られているような動きだった。股間をズボンの上から、熱烈に愛撫していった。勃起した
性器の輪郭を、生地の上から擦っていた。その間に、ブラウスの裾を自分でスカートの腰
のゴムから引き抜いていた。外に垂らしていた。岩端の力では簡単にはできないことだっ
た。
彼には、自分で決めた、好みのフルコースがある。その順番に彼女を食べていくのだっ
た。それが一通り終了するまでは、夢中になっていた。
何があっても、耳を貸さない。鞠矢には、わかってきていた。実に、さまざまな男性の
好みがあるのだった。彼女は、自分の所属する援助交際クラブ『魔女の宅配便』で、現在、
月に平均して、四名の男の人と付き合っている。みんな、それなりの年齢になっている。
残念だが、二十代の若い元気な青年はいない。いれば、可愛がってあげるのに。
クラブの会費は高い。ある程度の収入がないと、利用できない。岩端ぐらいの、中年の
男性ばかりである。医師、弁護士、僧侶が利用順にベスト3の職業だと、代表の方から聞
いたことがあった。教師が、四番目だった。岩端からは、初対面の時に、中学校の教師だ
という自己紹介があった。恥ずかしそうにしていたが、鞠矢はなんとも思っていなかった。
他の、職業の人と区別するつもりは、何もなかった。男の人は女の子の身体が、いくつに
なっても、どんな偉い仕事をしていても、ただ好きなのだとわかっていたからである、
彼女は、次に来る行為を予期していた。でも、今日は、パンティではなくて、下も肌色
のビキニだった。ここから先は、風呂に入ってからでもいいと思うのだが……。岩端先生
は、どうするつもりなのだろうか。先生だけの力では、スカートとビキニのボトムを下ろ
せないだろう。手を貸してあげるべきだろうか。
予想通りだった。上半身のおっぱいを一通り探索した後で、先生は鞠矢のお腹から下り
ていった。下半身の攻撃を開始した。彼の言葉のままに、両脚を大きく、畳の上に伸ばし
た。「開けゴマ!」の呪文とともに、左右に開脚してやった。先生は、中学生と一緒にいる
ためか、妙にお茶目なところがある。おかしかった。真面目一本槍で、沈黙した相手とさ
せられるよりも楽しかった。先生は、彼女のスカートをえいやっと勢いをつけて、持ち上
げていた。頭から潜り込んでいった。
内腿を舐めてくれている。不思議な快感があった。鞠矢が敏感な場所だった。我ながら
肌が滑らかで、きれいだと思っている部分だった。厚い上下の唇を、しどけなく開いてい
た。笑わないように舌を噛んだ。くすぐったいのと、気持ちがいいのとの、ちょうど中間
ぐらいだったのだ。爆笑して気分を悪くさせたことがあった。鞠矢の太腿は、先生には、
充分に面積のある地下の世界だ。だから、まだしばらくの時間がかかるだろう。
低くて、かすかに圧迫感のある杉の天井を見上げていた。小さな小学校の頃、第三次性
徴が始まる前までは、高知県の山奥の村に、おじいちゃんと二人だけで一緒に住んでいた。
農家の古い部屋は、よく知っている。もっと、古い木材と紙の匂いがしていた。囲炉裏の
灰の匂いもした。
父母の顔を知らない。おじいちゃんも、話したがらなかった。聞いてはいけないのだと
思っていた。それでも、良いと思っていた。それなりに幸福だった。
おじいちゃんが老衰でなくなった。葬式の時に、初めて自分の兄だという人に出会った。
新東京につれてこられた。郊外の家に、彼の妻という人と三人で住んでいる。どうも家の
空気に馴染めなかった。
邪魔者扱いにされているのではない。が、なんとなくお荷物になっているのがわかった。
おじいちゃんの残した大きな農家と、田畑を売ったお金は、遺言でそっくりそのままに、
鞠矢が十八歳になったら相続することになっている。そうしたら、海外に出ていくつもり
だった。
それまで中学校と高校の残りの五年間は、なんとか我慢するつもりだった。家にはいず
らい。自然に外泊が多くなった。友達のところも、そうそういつまでも、居続けるわけに
はいかない。そんな生活をしている内に、ある女友達から、この仕事を紹介された。
男の人の相手をしてあげる。それだけで、その日の寝る場所が、確保される。嬉しかっ
た。兄夫婦には、友人の家に泊まり込んでいることになっている。携帯電話が、お兄さん
夫婦からかかってきたら、転送してくれることになっていた。
先生は、ビキニの上からあそこを熱心に舐めてくれている。暖かかった。兄夫婦の家の
冷たい空気よりも、ましだった。
携帯で、『魔女の宅配便』の本部に、今、ホテル石庭の両国の間に入りましたと、連絡を
入れた。本部長が了解と答えてくれる。ここから、先生の時間がカウントされる。今まで
の、三十分間分は、鞠矢のサービスだった。人身事故があったから、遅刻したのではない
のだ。待ち合わせ時間に遅れたのは、肌色のビキニを買うのを忘れていて、慌ててデパー
トで購入していたからだった。売場の更衣室で着替えて、駆け込んできた。洗濯もしてい
ない。新品だった。糊でごわごわとしていた。それは、肌に馴染んできた。
股間が、だんだんと暖かいと感じるようになってきた。生地に、先生の唾液が沁みてき
ているからだろう。
スカートの中で、もぞもぞと動いている先生の丸い頭部を、なでなでしてあげていた。
それなりに、いい気分になってきた。
3・土俵
岩崎は、ドアに中から鍵をかけた。余人の立ち入りを禁じた。ホテル石庭の地下である。
土俵の東西南北の四方に、正式な作法に則って、盛り塩をした。精液の染みた土俵の内部
の土も、とくに大量の塩で、きらきらと光るまでに清めた。人工塩のNACL、塩化ナト
リウムではない。海流も変化してしまったそうだが、瀬戸内海の塩田で採集された天然も
のである。
薄給の中学校教師には、ささやかなぜいたくだった。惜しみなく撒き散らすことに、意
味があった。
鞠矢にも、最初はまわしをしめることに抵抗があった。岩端の説得によって、結局、納
得してくれた。ビキニをつけてきてもらったのは、このためである。全裸というわけには
いかない。岩端の背丈からしても、彼女の股間の黒い陰毛に、頭からぶつかっていくこと
になってしまう。モロダシで彼女の勝ちである。古い冗談だった。心身がストレスで疲れ
ているのだった。男子相撲部と女子SUMO部の間で、決定的な事件が起こりそうな予感
があった。
相撲取りには、世界大に大きな土俵だ。が、彼女が立つと、小さな円でしかなかった。
ほんの二歩で外に出てしまう。教えた通りに、器用に四股を踏んでくれた。脚が、際限な
く空中に昇っていった。開門橋のようだった。股関節が柔らかいのだった。真下を、船で
も通れるだろう。足をずしんと下ろす。固めた地面を伝わって、岩端の素足の裏に、どし
んと重い衝撃が走った。五百キログラムの四股である。迫力がないはずがない。
ビキニの薄い肌色ならば、素肌のように見える。濡れれば素肌の透けるような薄い生地
だ。この頃の少女たちは、自分の美しい姿態を、男女に関わらずに、見せびらかしたくて
仕方がないのだ。そのために、作られた生地だった。汗や海水に透けたところから、鞠矢
の筋肉の形が、透けて見えていた。岩端の濡らした股間は、陰毛が黒々と透けていた。乳
首の形までが分かる。情欲をそそる光景だった。
予想通りに、岩端は鞠矢にころころと投げられた。何をしても、どんな業を使っても、
相撲については、何も知らない鞠矢に、なんとしても勝てなかった。空中にぽいっと、子
犬のように放り投げられていた。相撲四十八手の他の、禁じ手まで使った。が、効果はな
かった。体格が、違いすぎるのだった。幼児が、母親を相撲で負かすことができるだろう
か。片手でまわしをもたれて、つり出されれば、お仕舞だった。
何度も突進していった。鞠矢の胸を借りるつもりだった。彼女は、上半身を屈めて、地
面に巨乳の乳首の先端がするような低い態勢で、彼を受けとめてくれていた。胸にばしん
と、ぶつかっていった。ボインの弾力に、ぼいんと跳ねとばされた。尻餅をついていた。
片脚を持ち上げて、土俵の外につり出そうとした。が、片方だけでも、岩端よりも重量
のある物体である。地面に根が生えたようだ。動かせなかった。ボクシングのサンドバッ
グぐらいの直径のある代物だった。畳の上で撫でてやっている時には、餅のように柔らか
く、手のひらに吸い付いてきた。その皮膚が、ただ直立しているためだけに、別な物体に
変化していた。上半身の物凄い重量を、重力に抗して支えるためなのだろう。内部の筋肉
が膨れ上がって、皮膚をぱんぱんに押し上げていた。鋼鉄のような硬度を誇る、強靭な物
体に変身していた。
もう何回、挑戦したのかも分からなくなっていた。脚の上には、あの恐るべき乳房が前
に二つも付いた、上半身の胴体が乗っている。真下の脚に組みついている。鞠矢が、その
谷間からこちらを見下ろして笑っている。そんな時以外は、その顔の表情も分からない。
鞠矢の官能的な唇には、男性という哀れで非力な生きものへの、憐愍がちらりと浮かんで
いないか。それでも良かった。恥辱と屈辱を快感につなげるために、鞠矢との時間を、週
末に月に一回だけ、持っているのだ。この時間が、他の美しい女子中学生の肉体への、彼
の哀れな願望のすべてを、打ち砕いてくれる。彼女たちの誰もが、彼に対して、これぐら
いのことをできる力を、秘めているのだ。
女の子の体重は秘密である。聞くべきでもなかった。十四歳の女子としては、小柄な部
類に鞠矢は入るだろう。それでさえ、半トンは優に越えているだろう。岩端は、自分が歴
史上の、いかなる男性巨漢力士をも越える恐るべき相手と、戦っていることを承知してい
た。男性にとっては、軽自動車一台を放り投げようとしているようなものなのだ。不可能
への挑戦だった。
岩端は疲れ切っていた。鞠矢の底知れぬ体力は、疲れを知らない。彼の相手を飽きずに
努めてくれていた。鞠矢のありがたいのは、決して、手を抜かないでいれくれたことだっ
た。真剣勝負をしてくれていた。もし、彼女がわざと手を抜いて負けたりしたら、岩端は
舌を噛んでいたかもしれなかった。
3・岩風呂
ホテル石庭のビルの壁には、「岩風呂」と大きな文字が飾られている。売りは岩風呂であ
る。居間の奥が寝室になっている。二つのふとんがひかれている。どちらも男性サイズな
のだ。鞠矢には、座布団のようなものにしかならない。自分も、第三次性徴が始まるまで
は、あの大きさのお布団に、おじいちゃんと並んで寝ていたのだ。妙な懐かしさがあった。
その奥に、素通しのガラス窓を隔てて、岩風呂がある。幸いにして岩風呂は広い。鞠矢
のような、大きな女の子の身体であっても、浴槽に浸り切ることができる。男性サイズで
は、足を浸すぐらいしかできないだろう。地方の温泉宿に、泊りにきたような風情があっ
た。
風呂場のタイルと寝室の畳の高さは、ほとんど同じだ。湯が流れてこないように、溝が
ある。滾滾と湧き出でる湯が、そこに絶え間なく流れこんでいる。風呂場の両脇には、本
物の竹が植わっていた。わずかな緑だが、部屋にやすらぎと潤いを与えていた。
両国の間は、男性の力士の格好をした陶器のマスコット人形が、岩の上に立っている。
まわしの脇から、おちんちんを出している。暖かい湯が止まらずに、流れだしている。。か
わいらしかった。おちんちんマニアの鞠矢は、そこに毎回、口をつけて、チュッとキスを
してやった。
岩端は、鞠矢にはいくらか温めのお湯に、全身を浸していた。汗と土を洗い流していた。
温い湯だが、皮膚にひりひりとしみていた。周囲は、男性用に浅い。中央にいくと、女性
でも肩まで入ってゆったりとできるように、二メートル以上の深さになっている。
各地の温泉の岩を、そのままに運搬して、運んでいるのだという。隕石ガイアの衝突の
衝撃で、火山の地下の水脈も変化してしまった。いくつもの温泉が廃業となった。代わり
に、おもわぬ場所から、湯が湧きだしてくることもあった。
たとえば、この部屋には、両国という名前がついてる。旧世界では、日本の男性のため
だけの、女人禁制の相撲を演じる国技館という場所があったという。相撲の街として、繁
盛していたようだ。しかし、隕石ガイアの衝突による大津波の下に沈んだ。今は海底にあ
る土地である。現在も、国技としての相撲はある。が、力士は全員女性である。まわしを
しめて、巨乳をぶるんぶるんと揺らしている。巨体で、体当たりしている。凄い迫力であ
る。鞠矢も見るだけならファンだった。しかし、それは、岩端にとっては、相撲の偽物に
過ぎなかった。現在では、男性力士の相撲は、神社などでの祭礼の興業として、細々と命
脈を保っているのに過ぎない。彼は、中学校の男子相撲部の顧問をしている。なんとか、
日本の男子の誇りであった相撲を、次の世代に伝えたかったのだ。彼は、帝都六大学対抗
の男子学生相撲で、団体優勝をした経験があるという。
相撲とは、日本の神に捧げる神聖な行事であった。両国に国技館があったのは、偶然で
はない。それは、地理的には、武蔵の国と下総の国の、両方の国の境界にあった。しかし、
それは、また海から来る悪しき物を江戸に入れぬための聖地でもあった。大男たちの戦い
が、神への供物として捧げられなければならなかった。
両国とは、人間の国と常世の国の、双方の境界に位置する国でもあったのである。しか
し、その神聖な意味は見失われてしまっている。日本は、ガイアという異星の女神がもた
らした、巨大な女性によって、占領されてしまった。女相撲であるSUMOの隆盛は、そ
の象徴である。鞠矢は、そんな話を岩端から寝物語に聞いていた。
両国の間の風呂場の岩が、本当に現地のものなのかどうかは、岩端にも分からないそう
だ。東京湾の両国に、大きな岩の転がる岩場の多い海岸などがあったのだろうか。しかし、
少なくとも岩は岩だった。山のものでもない。海のものだった。波に洗われた、海辺の滑
らかなものだということが、分かった。
何というのだろうか。柔らかい砂岩の狭い窪みに、もっと固い砂粒が填まる。それが、
波に洗われるたびに回転して、中を削っていく。その砂が複数ならば、このように無数に
穴のあいた、夢の世界の魚の宮殿のような、不思議な砂岩を造るのだろう。鞠矢は、その
穴を数えていた。
浴槽の周囲の壁の隅に、無数の貝殻を張り付かせた、タコ壷があった。これは本物だろ
う。風情を、高めていた。白砂がタイルの床の一部に、敷き詰められていた。
海辺の波に洗われた砂岩を積み重ねて、この岩風呂が造られていた。
鞠矢は肌色のビキニである。海女さんになっていた。さっきから、もう五分間は、架空
の海底に沈んでいた。黒いゆらゆらする海藻の中の、小さな立ち魚を、お口にぱくりと啣
えていた。岩端のオチンチンである。
そのまま、海底で、口の中で愛してくれていた。鞠矢の肺活量は大きいから、五分間ぐ
らい水の中にいても、平気なのだった。攻撃は執拗だった。さっき、肌色のビキニの上か
らの急所の舌と指による攻撃で、本気で感じてしまったことへの復讐戦を、考えているの
だろうか。それとも岩端の相撲でのがんばりへの、殊勲賞のつもりなのかもしれなかった。
岩端の眼前で、鞠矢の巨大な一メートル八十センチのお尻が、肌色の桃のように、水中
でゆらりゆらりと踊っている。ビキニは小さくて、尻の深い割れ目を、ほとんど顕にして
いた。本物の桃太郎が、その割れ目から誕生しそうだった。それぐらいの大きさは、優に
あった。
岩端は、前から両腕をまわしていた。肌色のビキニの、たわわな椰子の実ぐらいの乳房
である。水中で、片方ずつ揉み解すようにしてやっている。岩端の肌は、鞠矢との相撲の
練習試合で、全身切傷や打ち身だらけだった。しかし、乳房は無傷である。神々しいまで
に光り輝いていた。巨大な玉のようだった。皮膚も、岩端の攻撃を物ともしなかったのだ。
死闘の痕跡さえも止めていなかった。
巨乳は、片手ではあまる。両手で包んで、ちょうど良いサイズだった。鞠矢は中学生だ
が、この時代の多くの少女と同じように、巨乳なのだった。
とうとう、湯の海面が割れた。大波が起こっていた。鞠矢の黒い頭が、浮上して来た。
息も切らしていなかった。
豊かな髪が湯を内部に含んで、盛り上がっている。聡明そうな広い額の頭皮に、張り付
いている毛の房もあった。
赤い唇がとんがっている。頬を膨らましていた。ついに、岩端をいかせられなかったこ
とが、不満のようだった。そのまま、岩端の唇を求めて来た。強い力で、はがいに抱き締
めていた。唇を吸ってきた。彼の身体を抱き上げていた。
そのまま濡れた身体で、透明なガラス戸の向こうの寝室に上がっていった。鞠矢は、直
立はできない。丸い膝を、畳に擦るような移動だった。ぼたぼたと湯が丸い雫となって垂
れていた。布団の上に倒れこんでいった。
鞠矢は、土俵で岩端の突進の衝撃を、胸に直接に受けていた。感じてはいたのだった。
男性の身体が、あんなに力に満ちて感じられたことはなかった。尋常の愛撫では、物足り
なさがある。乳房の脂肪の内側まで、沁みてこないのだ。それが、今回は違った。乳首に
びんびんと感じていた。仕事というよりも、本気で楽しんでしまっていた。
彼女は、今夜は、岩端を骨も残らずに、食うつもりになっていた。下半身に食らい付い
ていった。浴槽での、不感症だった先生への復讐戦のつもりだった。何か仕事上の悩みで
もあるのだろう。それを忘れさせてやりたかった。
夜は長かった。今夜は宿泊する。ホテルからの外出も可能である。岩端は夕食を食べに、
ノイエ・シブヤのレストランに行こうといっていた。疲れさせて、足腰を立たなくなる迄、
酷使してはいけない。
男性の身体と体力のもろさは知っていた。女性は労わってやらなくてはならないのだ。
中学校の道徳の時間にも、教わっていることだった。
相撲ならば、まだ序盤だった。中盤と終盤が残っている。
おいしかった。急所のペニスを、口からすぽんと外した。一回だけ、男の命のジュース
である精液を飲んだだけで、放免してやった。量が少ない。鞠矢は一度銜え込んだら、原
則として男が精を三回放出するまでは、絶対に離さない主義だった。今回は、妥協してや
ったのだった。
大きなざらざらした舌で、岩端先生の全身の擦り傷や切傷を、いとおしそうに、ひとつ
ひとつゆっくりと舐めてやっていた。刺激に、彼が苦しそうに喘いでいた。痛いのかもし
れない。傷口に染みるのかもしれなかった。
寝室の壁には、鞠矢のセーラー服の上下が、大きく壁面のひとつを覆い隠す垂れ幕のよ
うに、掛かっている。ADIDASの運動用のバッグには、レストランに外出するための、
おしゃれなドレスの着替えも入っている。
でも、もう少し遊びたい。肌色のビキニの上下を脱いだ。全裸になっていた。彼を抱き
締めてやった。人生の土俵で戦う中年の男性を、その巨乳の谷間で、暖めてやりかったの
だ。
新・第三次性徴世界シリーズ・5
ホテル石庭両国の間の巻 了
笛地静恵
|